バックギャモンの常識

 

1.プレシジョン・ダイス

バックギャモンで使用するダイスは、プレシジョンダイスと呼ばれるくぼみの無い同一の材質でできた立方体でなければならない。これは、1個千円と極めて高価だが、最低2個、このダイスを持っていなければプレイすることができない。なお、このダイスにはシリアル番号が付けられており、イカサマが発見された場合には犯人を特定することができる仕掛けになっている。処刑は内規に基づいて行われる。

 

2.チェスクロック

ゲームはすべてチェスクロックを用いて行われる。チェスクロックは、いつまでも振らないプレイヤー、および、いつまでも考えているプレイヤーが登場したために開発されたものであり、その起源は時計よりも古い。もちろん、時間が切れたら負けである。ただし、一部のプレイヤーはそのスリルを味わうために、ぎりぎりまで考える。また、考えていないことを悟られないために時間を使うプレイヤーもいる。もっとも、そんなことを気にする必要はない。落ちたら負けだと理解していれば良い。

 

3.イリーガル・ムーブ

現行法では、間違った動かし方をしてもやり直すことが認められている。ただ、棋譜をとらないアンダーグラウンドの試合では、意図的に自分に都合のよいイリーガルムーブをするプレイヤーもいる。一番の対策は、アンダーグラウンドではプレイしないことだが、生活に困った場合など、やむを得ないことも考えられる。いかなる場合でも、相手が意図的ないし非意図的にイリーガルムーブをする可能性のあることに留意し、相手のムーブを確認することは必須だ。なお、相手がイリーガル・ムーブを行った場合の対処法については個々に判断すること。

 

4.運と実力

バックギャモンはサイコロを用いるので運のゲームだと誤解している人が多い。しかし、実力のゲームとされる囲碁や将棋のプロの勝率の分布と、バックギャモンプレイヤーの勝率の分布はほぼ同じである。(ただし羽生善治は除く)

近年では、コンピュータソフトがプレイを解析してエラーレートを数字で評価してくれる。この値は少なければ少ないほど良い。トッププレイヤーと呼べるのは平均で4点以下というのが一般的な見方だ。一部に、世界のトップはエラーレートがマイナスであるという説があるが、これは冗談の通じない人の誤解であろう。

 

5.ダブリング・キューブ

有利な側が得点を倍にする提案を行う時に用いる。もっとも、不利な側が用いることも稀にあるのだが、これは多くの場合ビギナーの勘違いに過ぎない。ダブリング・キューブには、2、4、8、16、32、64と、倍々の数字が書かれている。バックギャモンを知らない人の中には、このサイコロの数字は間違っているのではないかと疑問を持つ人もいるので説明書を用意しておいた方が親切だ。なお、大阪オープンで優勝すると純金のキューブが副賞として授与されるというのは大嘘であって、信じてはいけない。

 

6.モンテカルロ

世界選手権が開催される場所であり、日本からも毎年多くのプレイヤーが参加している。モンテカルロを経験していないとギャモンプレイヤーとは言えないという人もいるが、そんなことは人それぞれの思いであって、特に定義はない。21世紀になってから、望月正行氏、鈴木琢光氏、矢澤亜希子氏の三人の日本人が世界チャンピオンに輝いている。賞金総額は12万ドルとのことだが、二人のチャンピオンが賞金を何に使ったかについては公開されていない。もちろん私も、そういう下世話な話にはまったく興味がない。

 

7.ポイントマッチ

通常のトーナメントはポイントマッチで行われる。特に規定はく、主催者の都合で5、7、9、11、13、15、21、25などのポイントを先取することで勝ちとなる。当然ながら、ロングポイントになるほど実力差が出る。また、ロングポイントマッチになるほど時間がかかるのも当然のことだ。即ち、時間に余裕のない人はバックギャモンには向かない。さらに、お金にも余裕があった方がいいと私は思う。ただし、この点に関しては異論もありそうだ。

 

8.コール・ダイス

出したい目を声に出して言うことは禁止されている。理由は声に出すことで出したい目が出る確率が高くなるということが科学的に証明されているからである。また、基本的なマナーあるいは人間性の問題だが、相手が悪い目を振った時にクスッと笑うこと、最後にゾロ目を振られた負けた時に叫び声を出すことはよろしくない。ただし、大阪は治外法権であり、6ゾロを振った時に歌を歌うことが認められている。

 

9.スタック

一か所に駒が5個以上ある状態をスタック、あるいは煙突と言う。一般世界では煙突は高いほど良いのだが、バックギャモンでは煙突は良くないというのが常識である。この辺りは世の中の価値観と正反対なので注意が必要だ。しかし、やむを得ずスタックになる場合もある。そういう日はゲームをやめて家に帰ろう。

 

10.プレイヤーの条件

バックギャモン・プレイヤーになるための条件はただ一つ、バックギャモン遺伝子を持っていることだ。この遺伝子が極めてまれであることは、多くの普及活動が期待するほどの効果を上げられないことからも明らかである。すなわち、バックギャモンを面白いと感じるかどうかは、遺伝子レベルの問題なのだ。もっとも、具体的にどの遺伝子がバックギャモン遺伝子かということは未だ明らかになっていない。研究が進まない理由は、この遺伝子を特定してもノーベル賞には繋がらないからだと思われる。

 

11.初心者の心得

初心者を名乗る以上は、スロットやデユプリケーションなどという手筋を用いてはいけない。そんなことをしたら、嘘つきだと言われるからだ。もっとも、ある人が初心者に対して「上位者からのキューブはパスするのが当然だ」という指導をしているのを目撃したことがあるが、こういう言葉を真に受けてはいけない。初心者は人を見る目に確信を持ってから師匠を選ぶことが大切だ。

 

12.バックゲーム

この言葉は、バックギャモン仲間以外の場所で口にしない方が良い。好色家が異常な反応を示す場合があるからだ。この一言がきっかけで、家庭だけでなく人生が崩壊してしまった人を私は知っている。好色家のパワーは尋常ではないのだ。なお、一説には「美人が相手ならバックゲームにせよ」を格言だと思っている人がいるが大きな間違いである。これは、もてない男性の戯言に過ぎない。

 

13.バックギャモンとは何か

難しい質問だ。いくつかの答えが考えられる。

 回答1)純粋な確率計算だけを頼りに冷徹なプレイに徹することが要求される世界的投資家達が密かに愛好する世界的なゲーム。

 回答2)たった30分ほどで天国と地獄を味わえるスリリングなゲーム。

 回答3)サイコロの発明と共に生まれた人類最古のゲームの流れを汲む最高に洗練された知的ゲーム。

 ・・・回答は上記のどれでも良いし他の回答でも良い。ただし、すべての回答が正しいということではない。

 

14)マナー

バックギャモンは上流階級のゲームだと宣伝している人もいるが、世界的に見ると必ずしもそうとは言えない。トルコでは日本の縁台将棋のような位置づけだし、国あるいは地域によってその認知度や位置づけは異なる。従って、世界共通のマナーを文章化することは、ほぼ不可能である。

もっとも、大阪においては、「溜息をつく」、「舌打ちをする」、「悔しい顔をする」、「ボヤク」、「ささやく」などは嫌われる場合があるようだ。

結論としては、「郷に行っては郷に従え」、「長いものには巻かれろ」、「君子、危うきに近寄らず」、「金持ち喧嘩せず」、「犬も歩けば棒にあたる」、「猫の着ぐるみを着た狸」ということに尽きる。

 

15)シェイク

ダイスカップにダイスを入れてダイスカップを振る動作をシェイクという。シェイクが英語で「激しく振ること」を意味することは誰もが知っているだろうが、念のために書いておく。

バックギャモンではダイスを振る前に3回以上はシェイクするというのが一般的だ。ただし、特に定めの無い場合には、数十秒あるいは数分振り続けることもある。

極めて長くシェイクした場合、嫌われ者となるか、あるいは伝説の人となるかは何とも言えない。一度、試してみる価値はあるかもしれない。

なお、プレイに熱中し過ぎて、ダイスカップではなくウイスキーのグラスをシェイクした人がいた。当然、ボードはビショビショとなり所有者は顔をしかめた。つまり、シェイクには注意が必要であると言いたいのだ。

 

16)バックギャモンプレイヤーと投資家

バックギャモンと投資は本質的なところで酷似している。すなわち、厳密な評価と分析から、確率論という数学を用いて、エクイティとボラティリティを求め、1%以下の差異を考えるゲームだという点で共通しているのだ。

直観や感覚、閃きといったものは、数学的な基本、言い換えるとプレイヤーとしての土台が出来ている人が語るものであって、初心者が感覚などというと失笑を買うだけである。

もっとも、投資家にプロのバックギャモンプレイヤーが多いという話、またはその逆はあまり聞かない。それは各々のゲームの特性を知る人にとっては驚くべき話でもない。一般に、投資家は売買するだけの楽な仕事と思われがちだが、これは大変な誤解だ。投資家は日々追われるように情報を収集し、分析し、評価し、決断する。こんな多忙な人々にバックギャモンを楽しむ余裕などあるだろうか。

投資で稼いでからバックギャモンを楽しむか、バックギャモンで稼いでから投資家になるか、どちらの道を選ぶかは、もちろん自由だ。

 

(2015/1/23 更新)